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2番抵当のサービサーが競売に取下げはできる?
今回は「自宅を2番抵当のサービサーから競売の申立てをされてしまった」会社経営者(Aさん)からの相談をご紹介します。
Aさんの希望は言うまでもありません、競売の取下げです。
結論を先に書きますと、サービサーの競売申立から約4か月後に取下げとなりました。
Aさんは競売回避を成し遂げましたが、中小零細企業を取り巻く環境は決して良いものではありません。
むしろ、年々厳しさを増しているとさえ感じています。
今後は、競売の危機に直面する中小零細企業の経営者も増えていくのではないかと危惧しております。
サービサー誕生よりも前から債権回収に携わっていた筆者が、競売申立に至った経緯が少々特殊では? との印象があり記事にしました。
サービサーの回収や競売の対処に悩む、中小零細企業の経営者のお役に立てれば幸いです。
2番抵当の銀行がサービサーへ債権譲渡
借入の経緯は会社の事業資金が必要になり、銀行へ融資の相談。
会社の経営状況からすると、担保となる資産も無いため、経営者保証が条件となりました。
住宅ローン返済中の自宅を担保提供し、2番抵当を設定して融資を受ける。
その後、住宅ローンは何とか返済を継続していましたが、事業資金が返済不能となり銀行が有担保でサービサーへ債権譲渡してしまいました。
そして、2番抵当のサービサーが競売の申立てをした段階で当事務所へ相談という流れです。
相談はサービサーの競売申立後
競売はサービサーにも大きなリスク
実はこの相談案件、筆者からすると「サービサーもよく費用を掛けてまで競売の申立をしたなぁ・・・」といった印象です。
というのも、まず競売になっても売却代金が、優先順位で1番抵当の住宅ローンの借入分から差引かれます。
競売で落札されても2番抵当のサービサーへ、配当金が回ってくるかは微妙だからです。
1番抵当の住宅ローンは返済中のため、そちらの金融機関にしてみれば、貸した分は全額回収できても、その後の利息は貰えないため、現時点での競売は迷惑な話です。
また、1番抵当の金融機関でさえも、最悪全額回収できないことも想定されます。
競売のルールには、この様なケースに対処するため「無剰余取消」という制度があります。
無剰余取消とは
優先順位の高い抵当権者(今回は1番抵当の住宅ローン)に損害を与えないため、回収の見込めない後順位の抵当権者(今回は2番抵当のサービサー)が競売を申立てた場合、裁判所がその競売の申立てを取消してしまいます。
上の図で説明すると、2,000万円で売却できそうな一戸建て、1番抵当の残債2,000万円・2番抵当の残債1,000万円とあった場合、2番抵当の債権者が競売を申立てても、配当(回収)が見込めないため裁判所が取消します。
ある意味、嫌がらせ等の無意味な競売ができない仕組みになっています。
無意味な競売は裁判所が取消
サービサーは競売を望んでいなかった可能性も
実のところAさんは「無剰余取消」の制度をきちんと理解していました。
そのため「無剰余取消」が自身のケースに該当すると判断し、2番抵当のサービサーに対して常に強気の対応に出ていたのです。
サービサーとのやり取りで『競売にできるなら、お好きにどうぞ』のような感じで対応を続け、返済には応じていませんでした。
実質的には、サービサーとの交渉もこう着状態となり、結果的には「売り言葉に買い言葉」で競売申立へと進行してしまいました。
ただし、事の経緯からすればサービサー側も致し方なかったと考えられます。
こう着状態の打破が競売申立
サービサーも業を煮やした結果
サービサー側の立場から見ると、全く持って返済の意思を示さない者から回収するのは、とても大変なことです。
2番抵当ながら不動産を担保にもしています。
時間を掛けてでも確実に回収するには、1番抵当の住宅ローンの返済が進んだ段階で競売に掛けるなどの手法もあります。
しかし、住宅ローンの返済は長期に及ぶため10年後、20年後となってしまいます。
サービサーとしても、投資した資金を回収するため待っている余裕などありません。
サービサーは早期に回収するため、大きな賭けに出たものと思われます。
サービサーの心理戦
住宅ローンの残債と売却できそうな予想価格では、2番抵当のサービサーまでは「配当があるか・ないのか」ギリギリのところです。
あとは裁判所の判断で無剰余取消になるかどうか、現時点でハッキリとした答えは出せません。
その一方で、サービサーは競売の申立と同時に競売の取下げについても、ほのめかしています。
つまり、競売の申立てでプレッシャーを与え、ある程度のまとまった金額で取下げについても提案してきているのです。
また、仮に無剰余取消となっても、債務が消滅した訳ではありません。
住宅ローンは問題なく返済しているため、このままいけば住宅ローンは着実に減りますが、時が経つにつれ、やがて問題は再燃することになります。
当事者にしてみれば、家族が住む家が競売になるかも・・・ となれば、やはり弱いところを突かれているため大きな不安を抱えてしまいます。
サービサーの巧みな交渉術
サービサーは「競売の取下げについても、ほのめかす」と上で書きましたが、具体的に金額を提示し『○○万円返済してくれれば競売は取下げます。』とサービサーの担当者は告げています。
自宅が競売となっている経営者にとって、ホッとできる瞬間ではありますが、安心はできません。
サービサーの担当者は○○万円で競売を取下げるとしただけで、残りの借金を免除する訳ではありません。
従いまして、きちんと話をつけるべきは、一旦○○万円で競売を取下げ、残債の扱いについても取決めをしなければ、結局は請求され、再び競売の可能性すら残してしまいます。
決めるべきは、中途半端な内容ではなく最終的な返済総額、及び返済方法が示され、残債は債権放棄してもらることが基本です。
債権放棄までの道筋をつける
返済計画は和解書の作成が必須
もともと何の書類も無しで、サービサーの言われるがままに○○万円を工面し、そのまま振込んでしまうことなど無いでしょう。
返済についてはきちんと和解書を作成・書面化した上で約定通りに返済が済めば、残りは免除する取決めが必要です。
不動産が担保となっているようなケースでは、不動産を手放さないことを前提とするならば、債権者(今回はサービサー)と返済計画を作成のもと返済していくことが必要になります。
和解書の約定通りの返済で解決
今できる解決策がベスト
Aさんはサービサーが提示した金額について、何とか工面できることになりました。
当事務所としては『サービサーの提示金額で残りは免除となるならば、いい条件です』
ただし『単に競売の取下げに応じる金額であれば、問題の解決にはならない』と伝えました。
その理由は、一旦競売が取下げ、或は無剰余取消となっても、債務がある限りサービサーは請求可能です。
先の長い話ではありますが、やがて住宅ローンが減った頃に再度、競売の可能性も排除できません。
また、不幸にも相談者が無くなってしまった場合、住宅ローンは保険で返済できますが、サービサーの債務はどうでしょうか?
元々は会社の事業資金で借りているため、経営者は連帯保証人になっています。
つまり、自宅は住宅ローンが無い状態で相続されますが、同時にサービサーの債務も相続されてしまいます。
ましてや、抵当権も設定しているので、住宅ローンが無くなれば、サービサーが1番抵当になります。
がんじがらめの状態で、回収できるとなれば、もちろんサービサーは容赦しないでしょう。
不動産を担保にした借入れで悩んでいる方は大勢います。
共通するのは、返済の見込みが無ければ、『現時点で出来ること』それがベストな方法である方がほとんどです。
サービサーは債権回収のプロ
今回のケースは、サービサーの提示額で終わるならば、そこで話に乗るべきです。
しかし、単なる競売の取下げで、その後の返済についての見通しが立たないようであれば、自宅を任意売却にて手放す方向で調整する事案となりました。
サービサーは債権回収が専門の組織のため、ごまかし等は通用しません。
ある程度、サービサーが譲歩し決着できそうなタイミングであれば、手を打つのも解決方法の1つです。
サービサーも解決に向けた前向きな交渉は大歓迎