住宅ローンが払えなくなり任意売却を試みるか悩んでいると、どうしても気掛かりなのは残債についての問題です。
任意売却後に多額の残債が生じてしまうことの影響について、無関心ではいられないのは当然です。
特に多くの方が「任意売却後も自動車を保有していて大丈夫でしょうか?」という疑問をお持ちです。
任意売却後に残債があると「車を差押えをされるのでは?」と心配してしまいます。
また、自動車ローンの返済中であれば「一括返済を求められ、車を引き上げられてしまうのでは?」といった疑問もでてきます。
単刀直入に申し上げて、自宅などの不動産を任意売却した方が、資産価値のある高級車に乗っているようなケースではないと想定して答えるならば大丈夫です。
任意売却に精通するFP&不動産コンサルの有資格者が、任意売却後の車の差押えや自動車ローンの扱いについて解説します。
これから任意売却を検討される方は是非参考にしてください。
車を失えば生活も成り立たない
任意売却後のお住いは変わっても、ご家族も含めて通勤や通学などの基本的な生活スタイルは変わりません。
特に、自動車は地方にお住いの方にとって、大切な移動手段です。
無くなれば通勤や子供の通学、そしてお年寄りも同居していれば通院もできない可能性があります。
また、当事務所へ相談の多い自営業の方は、職種よっては自動車が無ければ、仕事もできなくなる恐れがあります。
仮に任意売却後に多額の残債があったとしても、生活に必要な車を手放すよう促す債権者では、その後の回収の見込みについては絶望的となってしまいます。
都心を除けば自動車は必需品
自動車が必需品とみなされないケースは?
任意売却される方の多くは、不動産を売却してもローンを完済できず、残債が生じてしまいます。
その残債の返済については、任意売却後に債権者と相談し対応します。
その中で週末にしか利用しない自家用車の維持費が高額で、残債の返済が少ないとなれば債権者の理解は得られないかもしれません。
その反面、通勤・通学や仕事で必要な自動車を売ってまで、返済を迫ることは通常ありません。
自動車の利用目的が決まっていて「必要不可欠なものなのか?」
ある程度は、ご自身で判断できると思います。
高額な維持費を負担してまで自動車が必要か?
任意売却後の残債で車の差押えは不可能に近い
それでは、任意売却後の残債の回収を理由に「車を差し押さえることは実務上可能なのか?」
非常に気になるところです。
結論としては、ほぼ困難と言って差し支えないでしょう。
金融機関やサービサー等の債権回収専門業者が、自動車を差押える場合、どのような条件が必要になるか?
〈自動車差押えの要件〉
- 債務名義の取得
- 自動車の登録事項等証明書
上記の2つが必要となります。
債務名義の取得
任意売却後に残債があるからといって、簡単に差押えが可能になる訳ではありません。
裁判所の判決等で「債務の存在を認めてもらうこと」で初めて債務名義は取得できます。
結果、時効期間を10年間に延ばせるので、債権の保全効果もあります。
民間金融機関の住宅ローンなど不動産担保ローンが払えず、不動産を任意売却すると残債はサービサーへ債権譲渡されることがほとんどです。
その後、サービサーが裁判を起こし、債務名義を取得する事案が増えています。
しかしながら、債務名義取得の目的は自動車などの差押えより、前述した債権の保全や心理的圧迫を与えるためのように感じます。
訴訟で心理的な圧迫も受ける
自動車の登録事項等証明書
陸運局で発行してもらえる書類ですが、以前は自動車のナンバープレート(自動車登録番号)のみで簡単に取得できました。
しかし、平成19年11月より犯罪利用の防止や個人情報保護の目的により、自動車の登録事項等証明書を取得するには自動車のナンバープレート(自動車登録番号)の他に車体番号も必要になりました。
従って、自動車を販売した業者であれば分かりますが、その他の者が把握するにはボンネットを開けてみたり、車検証でも確認しない限り調べる方法がありません。
事実上、債務者本人が協力しなければ、車体番号の確認は難しいでしょう。
車のナンバーではなく車体番号が必要
本人名義の自動車の確認自体が困難
その他の点では、所有者と債務者の名義が一致している必要があります。
家族名義やローン中でクレジット会社名義の場合もあり、その様なケースでは差押えることは不可能です。
そもそも「債務者が自動車を保有しているか?」
その確認も債権者側が行わなければならず、仮に所有していれば自動車を差押え、不動産と同様に裁判所での競売は可能となります。
しかし、費用対効果を考えれば、得策とはいえないでしょう。
ちなみに、同じ自動車でも軽自動車の場合は、登録制度自体がないため自動車の差押えではなく、動産として差押える必要があります。
軽自動車も含めて自動車の差押えはハードルが高い
自動車ローンの一括返還を求められる理由は?
「自動車ローンの一括返還を求められるのでは?」と心配されている方は信用情報機関に登録されることを気にかけてのことだと思います。
自動車ローンの契約条項では「信用情報機関に金融事故の情報が登録(いわゆるブラックリストの登録)されると一括返済を求めることが可能」としているからです。
この一文がとても大きな意味を持ち、ローン会社次第で一括返還を求めることが可能となるからです。
ローン会社は一括返還を求められる!
しかし、自動車のローン会社にしてみれば遅滞なく返済されている限り、何もデメリットはありません。
他社の金融事故を理由に、一括返済を求める可能性は低いでしょう。
しかも、他社のローンは焦げ付いても、自社の返済をきちんと続けてもらえれば利息も付されます。
ローン会社にしてみれば、見込みのない一括返済を求めるよりも、完済してもらうことが結果的に利益も伴います。
大抵の方は、住宅ローンと比べれば自動車ローンは返済額も低い傾向にあります。
住宅ローンは滞納しても、自動車ローンは返済を継続しているならば問題は発生しないケースがほとんどです。
ただし、自動車の買い替えなどで新たなローンを組む場合、信用情報の回復がない限り審査をパスしないとご理解ください。
ローン会社は返済の継続でメリットを享受できる
自動車ローンも滞納してしまったら
現在では自動車ローンは残価設定クレジット等もありますが、こちらも含めて自動車ローンとします。
どちらにしても、自動車ローンも滞納してしまえば、やはり問題は生じます。
自動車ローンを利用する場合「所有権留保」といい、ローンの返済中は所有者が自動車を販売したディーラーやクレジット会社(以下、ローン会社)の名義となっていることがあります。
そのため、自動車の所有者(名義)の違いによって対応が異なります。
〈ローン利用時の自動車の名義〉
- ディーラーやローン会社(所有権留保)
- 借りた本人
ディーラーやローン会社(所有権留保)
自動車の所有者(名義)がローンを借りた本人ではなく、ディーラーやローン会社の名義の場合、所有権留保となり、いわば自動車が担保になっています。
所有権留保でローンを滞納すると「自動車の引き上げ」と呼ばれ、担保の自動車を名義人となるディーラーやローン会社へ引き渡すことになります。
そして、担保の自動車は売却されます。
不動産の任意売却同様に残債があれば請求されることになります。
ただし、自動車ローンの滞納でも自動車自体が古く、無価値のような場合は、引き上げをしてもらえないケースもあります。
引き上げを断られると、残債の返済も含めローン会社と話し合いになります。
所有権留保は自動車の引き上げ
借りた本人
銀行などから借りた自動車ローンの場合は、こちらに該当します。
自動車の名義は、基本的にローンを借りた本人と同じです。
購入資金は借りてますが、自動車は担保になっていないため「引き上げ」はありません。
ローンを滞納した結果、自動車は残りますが期限の利益を喪失し「一括返還」を求められます。
期限の利益の喪失については、住宅ローンも同様のため詳しくは、以下の記事を参照してください。

滞納すれば一括返還
任意売却検討中で自動車が気掛かりな場合
任意売却を検討していて、どうしても自動車が気掛かりであれば、ご家族等の身内に売却して、名義変更後に使用させてもらう形を取れば、多少不安は和らぐかもしれません。
その際、任意保険の切替で保険等級が変わり保険料の増額になる事もありますので慎重に検討しましょう。
また、自動車ローンで購入の場合、完済後は早めに所有権解除の手続きを取り、その後、同様に売却・名義変更の流れとなります。
※ 生活に必要程度の自動車の利用についての記載で、決して資産隠し等を推奨している訳ではありません。
任意売却は大抵の方が初めて経験で、分からないことや不安なこともたくさんあります。
けれども、実際に任意売却業者に質問してみると意外に簡単に返答され「大した問題ではなかった・・・」と後で思うこともあります。
どこの業者も任意売却の相談は無料です。
積極的に活用し、後悔しない任意売却を目指しましょう。
不安ならば早めの相談を心掛ける!