零細企業の社長が会社を辞めるときの現実

廃業したいけど経営者保証はどうなる?

 日本には多くの零細企業がありますが経営自体も思わしくないため、高齢を期に事業の継続を断念する方もいらっしゃいます。

いわば会社の事業をストップし、経営者から身を引く瞬間です。

そこで問題となるのが会社(法人名義)の借入れが有り、事業停止により返済の目途が立たなくなってしまうと、会社の債務についても何らかの対応が必要になります。

目次

経営者=連帯保証人という問題

 借りているものは返すのが当然ですが、会社の借入れは経営者個人とは関係無く、返済義務は生じません。

しかし、2014年(平成26年)より以前は、中小零細企業が金融機関から融資を受けるには、経営者自身が連帯保証人となる経営者保証が一般的で、かつ自宅等の不動産を担保としているケースが多く見受けられます。

そのため、特に零細企業の経営者のなかには、会社を辞めたくても自宅が担保となっており、返済の目途も立たないため、辞めるに辞められない状況に追い込まれている方も少なくありません。

零細企業の経営者は、ほぼ連帯保証人(経営者保証)という構図ができていました。

そして現在でも零細企業であればあるほど、経営者=連帯保証人という呪縛からは逃れることは困難となっています。

零細企業とは

 まず最初に、当事務所では零細企業と表現しておりますが、中小企業庁では小規模事業者・中小企業の定義を以下のように説明しています。

小規模事業者の定義

業種分類中小企業基本法の定義
製造業その他従業員20人以下
商業・サービス業従業員 5人以下

中小企業の定義

業種分類中小企業基本法の定義
製造業その他資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人
卸売業資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
小売業資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人
サービス業資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
中小企業庁ホームページ中小企業・小規模事業者の定義より引用

中小企業に関して言えば、地方都市では地元で有名な大企業と見てとれる位の規模も該当しています。

当事務所では、中小企業に定義されている位の企業は念頭に置かず小規模事業者に注力し、あえて零細企業として表現しています。

理由としては、中小企業のレベルであれば顧問弁護士等とも存在し、ある程度の専門知識を参考に経営者が判断できるからです。

従いまして、顧問弁護士や経営コンサルタント等とは、ほぼ無縁の小規模事業者=零細企業の経営者向けの記事となり、もともとは自営業者から法人成りした事業者等がイメージしやすいかと思います。

経営者保証に関するガイドラインの導入

 先述の2014年より以前は経営者保証が一般的としたのは、経営者保証に関する支援策として2014年2月1日から全国銀行協会と日本商工会議所が『経営者保証に関するガイドライン』を策定し導入されたためです。

しかしながら、このガイドラインでは中小企業・小規模事業者等をひとくくりに中小企業としている点には注意が必要です。

経営者保証に関する支援策

「経営者保証」には、経営への規律付けや資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる要因となっているという指摘もある。

これらの課題の解決策として、全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン(以下、「ガイドライン」とする)」を策定(平成25年12月5日公表、平成26年2月1日適用開始)。
また、事業承継時に経営者保証が後継者候補確保の障害となっていることを踏まえ、金融機関と中小企業者の双方の取組を促すため、政府として事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」(令和元年5月)を実施している。

中小企業庁ホームページ経営者保証より引用

経営者保証に関するガイドラインのポイントについても、上記の中小企業庁ホームページ経営者保証に記載されていますが、その中で注目すべきは『返す時(経営者保証を履行する時)』になりますので以下に記載します。

保証履行後も保証人の手元に残る資産等

  1. 破産時の自由財産(99万円)は、原則として経営者の手元に残る
  2. 金融機関は、事業再生等の早期着手により法人からの回収見込額が増加した場合、自由財産に加えて「一定期間の生活費(雇用保険の考え方を参考に、年齢等に応じて約100万円~360万円)」を経営者に残すことを検討
  3. 金融機関は、「華美でない自宅」について、経営者の収入に見合った分割弁済をする等により、経営者が自宅に住み続けられるよう検討
  4. 保証債務履行時点の資産で返済し切れない保証債務の残額は、原則として免除する

保証履行後の保証人情報

保証人が債務整理を行った事実その他の債務整理に関連する情報は、信用情報登録機関に報告・登録されない

中小企業庁ホームページ経営者保証より引用

あくまでもガイドラインであって、法的な拘束力はありません。

そのため、3についても『「華美でない自宅」について、経営者の収入に見合った分割弁済をする等により、経営者が自宅に住み続けられるよう検討』とありますが、返済しながら住み続けることになり、高齢の元経営者がわずかな年金の中から少しづつ返済を続ける程度では金融機関が納得するとは思えません。

また、仮にわずかな返済を認めてくれても、自宅は担保のままであり相続が発生すれば、相続人は債務も引き受けなければならないため、当然ながら相続放棄を余儀なくされます。

それゆえに担保となっている自宅を手放さずに済ませることは難しいのが現実です。

また、4の『返済し切れない保証債務の残額は、原則として免除する』の原則としてがくせ者で、返済しきれない保証債務であっても、いとも簡単に免除してくれる訳ではありません。

そして、『保証人が債務整理を行った事実が信用情報機関に報告・登録されない』についても、いわゆるブラックリストに登録されないことを示しています。

しかし債務整理するような状況であれば、すでに多額の個人的な借入も避けられないため、聞こえは良いのですが実態はあまり効果の無いものと考えます。

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経営者保証の提供状況

 中小企業庁では、経営者保証に関するガイドラインの活用実績を公開しており、2018年度公表分からは、信用保証協会の活用実績も含めて公開されています。

以下のグラフは経営者保証に依存しない新規融資の割合です。

中小企業庁ホームページ経営者保証より引用

政府系金融機関に関しては、新規融資に占める経営者保証に依存しない融資割合も年々増加し、2022年度上期では5割を超え、信用保証協会が3割弱、民間金融機関では3割強となっております。

全体では、まだまだ4割弱が経営者保証をしながら融資を受けている現実が浮かび上がってきます。

経営者保証に関するガイドラインは零細企業には役立たない

 経営者保証に関するガイドラインで注目すべき点は、既にある保証契約を見直す場合も含まれております。

当事務所の相談者は、ほぼ例外なく該当しているため、一見すると朗報のようにも見えます。

しかし、素人が経営者保証に関するガイドラインの仕組みを理解しようとしても、専門用語も多く非常に分かりづらいと思います。

かみ砕いて言えば、『既にある保証契約を見直す場合は、現在の状況が経営者保証なしで融資を受けれる状況であること』となります。

経営が苦しく高齢のため廃業も検討している零細企業の経営者では、とても保証契約を見直してもらえる状況でないのは明らかです。

しかも、自宅を担保に融資している金融機関からすれば、零細企業の経営者保証を見直すにはリスクが大きく負担になってしまうのが目に見えています。

政府広報オンラインの中小企業や小規模事業者の方へご存じですか?「経営者保証」なしで融資を受けられる可能性がありますその中の『3.「ガイドライン」でどうなるの(2)~既存融資』が公的なサイトでは割と分かりやすいので紹介します。

負債を有したまま担保の不動産を残すのは困難

 経営者保証に関するガイドラインが導入されても裏を返せば、4割近くの方が経営者保証を条件に融資を受けています。

金融機関全体で見れば、まだまだ経営者保証は一般的で、負債を有して会社を畳むことを想定すると、経営者個人の不動産を手放なさずに済むことは、難しいのが現実です。

むしろ今でも経営者保証は一般的と考えるのが自然でしょう。

例外があるとすれば、不動産の抵当権の順番により連帯保証人分が優先されない場合です。

住宅ローンやその他の借入れが1番抵当、会社の連帯保証人分が2番抵当の様なケースを想定します。

不動産を売却しても2番抵当の返済まで満たない状況でありながら、1番抵当への返済が継続していれば、当面の売却は免れるかもしれません。

しかし、根本的な解決とは程遠く、問題の先延ばしでしかありません。

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会社に負債があれば不動産を手放す決断を!

 経営者保証により、自宅等の不動産が担保となっている場合、会社経営を辞める決断は負債が返済できない以上、同時に不動産も手放すこと意味し、結局は金融機関から売却を迫られます。

また、不動産の売却によって負債をすべて清算できるとは限りません。

つまり、不動産の売却価格を上回る借入金額により、自宅を手放しても借金が清算されない、厳しい現実が突きつけられます。

経営者個人で多くの資産を有していれば、会社の負債を清算することも可能ですが、その様な状況では無いため零細企業の経営者を悩ませています。

厳しいことを言うようですが担保不動産の売却は避けらず、例えそれが自宅だったとしてもです。

更に経営者個人名義の自宅を担保にしていれば、売却に伴い引越しも必要になり、その際の新居の準備も高齢であれば気に入った賃貸住宅を借りられないといったトラブルに直面する場合もあります。

良い例としては、お子様の家に同居できるケースもありますが広さや間取りなどの関係もあり、とんとん拍子で話が進む問題ではありません。

売却価格以上の負債は任意売却の段取りを!

 経営者であれば当然、借入の総額も把握しており、軽く不動産の売却価格を超えるようであれば、自由な売買が難しいことも想像できると思います。

経営者保証であっても不動産の売却により完済できなければ、金融機関と交渉しながら任意売却という方法により不動産を売却します。

また、取引先との関係もありますので、なるべく迷惑を掛けないように事業を停止するタイミングも見据えて慎重に進める必要があります。

適切な判断ができるかは、任意売却を依頼する担当者の手腕にも掛かってきます。

任意売却の相談は専門知識を有する者へ

 その他、経営者保証していても不動産は担保となっていないケース等は、早い段階であれば対策を講じられる場合もあります。

また、金融機関自ら経営者保証に関するガイドラインに言及し検討の打診なども想定しづらく、零細企業の経営者は皆苦しい状況に変わりありません。

それでも何とか返済も含めて切り盛りしていますが、借入の返済が滞ってしまう前と後では対応も全く異なってくる可能性が大きく、少しでも有利に行動するならば状況が悪く前に相談することをお勧めします。

廃業したいけど経営者保証はどうなる?

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