『任意売却後に残債の請求を無視していたら裁判になり、このままで大丈夫でしょうか?』という相談が度々あります。
任意売却後に多額の残債が生じてしまうことは、任意売却の性質上、特に問題ありません。
また、任意売却後にある程度の残債が発生することは、当初から予測できていることです。
しかし、その対処を怠り請求を無視し続けた結果、債権者が業を煮やしてしまったという状況です。
任意売却後ですから、どこかの業者に任意売却を依頼したはずです。
残債があれば、何かしらの請求が来るのは説明されていたと思いますが・・・
この記事は、任意売却に精通するFP&不動産コンサルの有資格者が「任意売却後に残債の請求を無視すると、どうなる?」という疑問について解説します。
任意売却後の残債を放置すると差押えのリスクが生じる
任意売却後の残債を返済に応じず、放置しておくと債権者も困ってしまいます。
そのため、以下2つの目的のために動くことになります。
- 強制執行
- 債権の保全
1.強制執行
債権者の権利を生かし、裁判所を通じて強制的に回収します。
「差押え」により預金口座などの金銭は回収され、動産などの物は競売にて現金化され、回収されてしまいます。
また、お勤め先から直接、給与を差押さえることもできます。
正式に認められた回収方法のため、借り手(以下、債務者)は拒否することもできません。
2.債権の保全
長い期間、返済に応じてもらえないと時効が成立し、回収不可能となる場合もあります。
その時効が成立しないように時効期間を中断し、債権を保全します。
「1.強制執行」「2.債権の保全」どちらも、債務者が前向きな返済に応じ、話し合いができていれば、多くのケースではこの様な対応とはなりません。
いわば、債権者も仕方なくといった感じとご理解ください。
任意売却後の残債の返済に応じず、放置された場合の債権者の対応を「債権者のできること・第1段階~第3段階」に分けて順番に解説します。
残債の放置は段階を踏んで対処
債権者のできること・第1段階
債権者が望んでいることは「スムーズな回収」です。
債務者に『任意売却後の残債があるので返済してください!』との請求に対して『ハイ! すぐに全額返済します』となれば、すべて解決する話です。
当然、そうならないため、以下の手段で債務者に対応します。
〈債権者3つの対応〉
- 書面連絡
- 電話連絡
- 訪問
実際には債権者ができることは、この3つしかありません。
順番に見ていきましょう。
1.書面連絡
書面によって請求書などを発送して返済を促します。
債権者としては、書面の連絡先に電話をもらい協議できることを望んでいます。
返済計画などや状況が確認できれば、解決につながる話となります。
ここで話がまとまるのが理想的
2.電話連絡
書面による請求に対して何も連絡がなければ、電話連絡もあります。
ただし、債務者は電話番号によって出る・出ないも自由です。
よく分からない番号は、無視することによって債権者と連絡を絶つことも可能。
番号が変わってしまい、音信不通となることも珍しい話ではありません。
3.訪問
訪問については、ほぼ無いものと思ってください。
あまりにも効率が悪いため、いきなり訪問するようなことは無いでしょう。
在宅していても居留守を使うこともできるため、無駄骨になる可能性が非常に高い。
どれを見ても、特別なことは無いと感じると思います。
債務者が反応してくれなければ、もう債権者はお手上げです。
第1段階はお手上げ
債権者のできること・第2段階
ご自身の意志で、債権者の連絡を無視してきました。
債権者としては、その後の対応につても「できることをする」しかありません。
話し合いができなければ、次は強制的に対処することになり、そのためには難しい言葉ですが「債務名義の取得」が必要になります。
債務名義の取得とは
「債権者のできること・第1段階」で残債の回収に進展がなければ、強制的な執行力のある法的手続きに進む以外ありません。
そのための準備は「債務名義」を取得することからスタートします。
何やら難しい言葉がでてきました。
裁判所のウェブサイト「裁判手続 民事事件Q&A」には、債務名義について以下の記載内容があります。
- 債務名義とは何ですか。
債務名義とは、強制執行によって実現されることが予定される請求権の存在、範囲、債権者、債務者を表示した公の文書のことです。
強制執行を行うには、この債務名義が必要です。債務名義の例としては、以下のものがあります。
債務名義について裁判所ウェブサイトからの引用
- a.確定判決
「100万円を支払え。」又は「○○の建物を明け渡せ。」などと命じている判決で、上級の裁判所によって取り消される余地のなくなった判決を言います。- b.仮執行宣言付判決
仮執行の宣言(「この判決は仮に執行することができる。」などという判決主文)が付された給付判決は、確定しなくても執行することができます。- c.仮執行宣言付支払督促
- d.和解調書、調停調書
記事冒頭の『任意売却後に残債の請求を無視していたら裁判になり、このままで大丈夫でしょうか?』という相談の場合、裁判所で出すaの確定判決が債務名義に該当します。
aの確定判決とは、裁判所の判決のことで、覆すこともできない判決のため確定判決と言います。
言葉が難解なため、理解するのも嫌になるかもしれませんが、要するに裁判所が「間違いなく残債(債務)は存在している」と認めたことになります。
その他、上記に記載した「裁判手続 民事事件Q&A」にありませんが、金銭の貸し借りを公正証書を以て借用書を作成した場合、「強制執行認諾文言付き」公正証書であれば「aの確定判決」同様の効力が認められます。
すなわち、公正証書(強制執行認諾文言付き)でも債務名義の取得と同等の効力を得たことになります。
債務者が強制執行を承諾する内容が記された公正証書も債務名義の効力がある
第2段階は強制執行の準備
裁判は債務名義取得の準備
債権者としては今までの請求方法ではダメなので、次にできることが、もう強制執行しかありません。
まずは、裁判所から判決(債務名義の取得)をもらう必要があり、裁判はそのための準備とも言えるでしょう。
任意売却後の残債は、単に借金を返していないのと同じです。
その請求を無視し続ければ、相手は裁判に打ってでるしかありません。
極めて当然な流れ
ここまでの流れは普通に考えれば、予想外のできごとは何もありません。
そして、債務名義の取得については、「2.債権の保全」の要件も満たし時効期間が10年延長してしまいます。
その他、債務者としては不安となり訴訟による心理的な圧迫も想定できます。
いっぽうで債権者にとっては、普段通りの形式的な対応のため、粛々と進めるだけです。
債権者には想定内の対処
債権者のできること・第3段階
「債権者のできること・第2段階」は、債務名義の取得を目的にしていました。
これは強制執行に向けた動きで、債務名義の取得でいよいよ債権者による差押えが可能となります。
もしも、お勤め先が長年勤めてきた職場であれば、かなり事態は深刻かもしれません。
債権者次第ですが、給与の差押えが実現できてしまいます。
実際には、長年勤めてきた職場を把握されながら、請求を無視し続ける方はいないに等しいでしょう。
このような状況は、どなたでも察しが付きますので安定した職場にお勤めの方であれば、事前に債権者とは前向きな話を協議しているものです。
第3段階は差押えによる回収
債務名義取得後の債権者の狙いは
『なぜ、裁判になった時点で、どうしたらいいかと考えるのか・・・?』と思ってしまいます。
もともと、返済義務のある自身の借金ですが、任意売却後に全く払える余裕がなければ裁判になろうと、払えないことには変わりません。
問題は実は払える余裕が少なからずあるのに、今まで放置してきた場合は、痛いところを突かれる可能性があります。
払いたくないから放置は手厳しい結果に!
債務名義の取得で覚悟しなければならないのが、郵便貯金や銀行預金の差押え、給料の差押えです。
家財道具や自動車に関しては、あまり心配しなくても大丈夫でしょう。

住宅ローンの借入時から同じ職場で働いていれば、債権者も把握してますので給与を差押えることも可能です。
このような場合、裁判になってから慌てて対応しても、債権者としては何を今更と思うでしょう。
そうならない前に、対処しなければならなかったのです。
債権者には、きちんと頭を下げて交渉してみるしかありません。
差押えを防ぐ手段はない
残債の問題は借金の有無
残債に関して、実は根本的には単純な問題で「借金の有・無」だけです。
任意売却前は住宅ローンならば「自宅がどうなってしまうのか・・・」という問題で頭を悩ませます。
しかし、任意売却後は、その問題は無くなり、後は「借金が有るのか・無いのか」のどちらかとなります。
要するに、借金を放置して置いたら裁判になってしまったということです。
残債の相談だけは、もはや詳しい状況は分かりませんが、払える余裕が無ければ心配する必要はないかと思います。
しかし、借金が払えるのに払わなかったのであれば、そのツケは回ってくるかもしれません。
任意売却後の残債は初めから向き合う
誠意を持って対応する
任意売却後に残債があれば、きちんと債権者に対して、今後はどう対応していくか説明しなければなりません。
最も、債権者によっては、返済能力が無いような方にも、心理的プレッシャーなのか、時効の中断が目的なのかは分かりませんが訴訟してくる場合もあります。
債権者としては本当に払えないかどうかを確認する術がないのも事実なので、まずは債権を保全しておくというのも一つの方法なのかもしれません。
債権者も本当の返済能力が分からない
そのような場合も、払えないことには変わりませんので、状況を説明するしかありません。
それでも定職を持ち、働いている方であれば、全く払えないと考える方が不自然で、少しずつでも返していくのが借金の対応ではないでしょうか。
そして、どうしても返済を拒否したいと考えるならば、自己破産も選択肢のひとつです。

どこの業者も同じですが、他社で任意売却された方の相談には対応できません。
任意売却後の残債は、ただの借金の問題であり相談先は法律事務所(弁護士)となります。