住宅ローンでも諸費用ローンを同時に利用するなど2番抵当が設定されていることは珍しくはありません。
とりわけ自営業の方や中小零細企業が利用する事業用の不動産担保ローンでは、1番抵当が銀行や信用金庫、2番目、3番目がノンバンク等、複数の抵当権者が存在するケースを多く目にします。
本記事では、事業者の不動産担保ローンや一般的な住宅ローンが払えなくなり、任意売却を検討せざる得ない場合、2番抵当や3番抵当など複数の抵当権者が存在しても任意売却はできるのか? その辺りの事情を解説していきます。
抵当権の順番とは?
まず最初に、1番先に担保として抵当権を設定した者を1番抵当権者、それ以降に抵当権を設定した者を後順位抵当権者といい、設定した順に2番抵当権者、3番抵当権者となって数が増えていきます。
抵当権の順番は不動産を担保にして、お金を貸す金融機関には最大の関心ごとであるのは間違いありません。
なぜなら、不動産担保ローンの借手(以下、債務者)が返済不能となり、担保の不動産を処分して回収する際の優先順位が抵当権の順番となっているからです。
少し分かりづらいと思いますので、かみ砕いて説明します。
金融機関から見て最悪の状態は債務者が返済不能となったときです。
その際、担保の不動産を処分して回収すると先に書きましたが、具体的には競売か任意売却のどちらかになります。
競売と任意売却で売却代金がどのように後順位抵当権者へ配分されるか、それぞれの違いを見ていきましょう。
後順位抵当権者の配当金(競売と任意売却の比較)
競売と任意売却の条件を以下のように設定します。
- 競売時の落札価格及び任意売却時の売買価格は2,000万円
- 1番抵当権者2,000万円
- 2番抵当権者1,000万円
- 3番抵当権者 500万円
- 残債務合計 3,500万円
- 利息及び遅延損害金や他の諸費用は考慮しない。
- 1番抵当権者 2,000万円
- 2番抵当権者 0円
- 3番抵当権者 0円
- 1番抵当権者 1,950万円
- 2番抵当権者 30万円
- 3番抵当権者 20万円
競売では落札価格が1番抵当の2,000万円にしか届かず、2番抵当、3番抵当では配当金が回ってこないため¥0です。
仮に落札価格が2,050万円であれば、1番抵当権者には配当金が2,000万円、2番抵当権者には配当金が50万円、3番抵当権者は¥0となります。
一方の任意売却では売買価格が2,000万円、1番抵当権者が全額回収でないにも関わらず、少額ですが後順位抵当権者にも配当金が渡っています。
※ 任意売却の配当でルールはありませんが、慣習のようなものはあります。上記は一例であり交渉により後順位抵当権者の配当金が決定されます。
競売時の後順位抵当権者
後順位の抵当権者は競売となった場合、1番抵当権者の債務額によって受け取れる配当金が大きく変わってきます。
競売の落札価格が1番抵当権者の債務額以下であれば全額1番抵当権者が回収してしまいます。
そのため、1番抵当権者の債務額を上回る落札価格でなければ、2番抵当以下に配当金は回ってきません。
従いまして、競売となれば2番抵当権以下では、回収額が最悪¥0となっても全く不思議ではありません。
更に後順位抵当権者に対して厳しいのは、実際の競売では滞納が続いるため、当然利息も発生しています。
利息についても1番抵当権者から順に優先的に2年分までは回収することができます。
そうなると後順位抵当権者の回収額はさらに減ってしまいます。
任意売却時の後順位抵当権者
競売の場合、後順位抵当権者は回収額が¥0の可能性がありますが、任意売却は競売とは異なり強制的な売却ではなく、言葉通り不動産の所有者による任意での売却です。
そのため、抵当権を設定している者すべてが任意売却に同意しなければ、抵当権を解除できず取引が成立することはありません。
任意売却で複数の後順位抵当権者が存在する場合、殆どのケースで1番抵当権者が売却金額の大部分を回収してしまい、後順位の抵当権者には配当金は回ってこないのが現実です。
しかし、競売のように後順位抵当権者に対して配当金が¥0となれば、後順位抵当権者も任意売却に対して何のメリットもありません。
そこで任意売却の場合は優先順位のある1番抵当権者が仮に満額を回収できなくても、後順位抵当権者の任意売却に対する協力金のような感じで少額でも配当金を受取れるよう配慮します。
後順位抵当権者が受取る少額の配当金は、抵当権解除の書類に印鑑をついてもらう手間賃のような意味でハンコ代と呼んでいます。
もちろん、後順位抵当権者も満足できる金額ではありませんが、競売となれば¥0の可能性が高い場合は任意売却に応じてもらえる可能性が高くなります。
なぜ1番抵当権者は任意売却に応じるのか?
複数の抵当権者がいる場合、1番抵当権者が任意売却に応じるメリットがあまり感じられません。
しかし、競売は落札されるまで金額は分かりません。
想定よりも高く売れることもありますが、逆に安くなってしまうこともあります。
そのため、任意売却は買手が決まれば、回収金額も決定されます。
予想しづらい競売を待つよりは、確実にスピーディーに不良債権の処理が進むことになり、債権者として最大のメリットとなります。
債権者にとっては時間という概念も非常に重要で、いかに迅速に対処できるかもポイントになります。
任意売却の難易度は?
2番抵当、3番抵当など複数の抵当権者がいる場合、その分交渉相手が複数存在することになります。
それだけ任意売却が難しくなるのは想像できると思います。
特に後順位抵当権者は簡単に任意売却に応じる姿勢は見せませんが、最初から拒否することも通常はありません。
つまり、駆け引きをしながら様子をうかがっている感じで、本音としては少しでも多く回収したいのが実情です。
当然ながら、任意売却も買手が決まらない限り、各抵当権者に提示できる回収金額も決まらないため、1番抵当権者が任意売却を拒否しなければ、ある程度は見切り発車で進めることになります。
そして買手が決まった段階で本格的な交渉に入る流れとなります。
複数の抵当権者がいても、完全に拒否されない限り任意売却に応じる可能性はあります。
後順位抵当権者との交渉ポイント
任意売却を希望し買主が現れても、複数の抵当権者がいれば交渉が難航することは容易に想像できます。
抵当権者の数が増えると互いのハンコ代の金額に納得せず、任意売却に向けての話が進まず、時間だけが無情にも過ぎてしまうこともあります。
むしろ、複数の抵当権者がいれば簡単に任意売却が進まないのが普通で、ギリギリの状況で対処していきます。
金融機関にも色々あり、拒否しないにせよ、すんなり任意売却に応じてはくれません。
しかし、交渉を進めなくては何も始まりません。
競売となると2番抵当以降は、まず配当は望めないケースが多く1番抵当権者すら満足に回収できないことも珍しくありません。
1円にもならないと考えるならば例え10万円、20万円のハンコ代でも回収できれば多少のプラスになります。
当然に後順位の抵当権者も理解しており、かならずや落としどころがありますので、誠実に粘り強く交渉していく必要があります。
任意売却は競売申立ての前に
複数の抵当権者がいる場合、任意売却を成功させるには1番抵当権者が競売の申立てをする前に任意売却をスタートすることが大変重要となってきます。
1番抵当権者が競売の申立てを行うのは以下のような理由が挙げられます。
- 任意売却の意思が無い
- 任意売却に時間が掛かり過ぎ
- 後順位抵当権者が任意売却に協力しない
1.任意売却の意思が無い
担保となっている不動産の所有者に任意売却の意思が無ければ、当然ながら滞納が続き競売による回収となります。
2.任意売却に時間が掛かり過ぎ
任意売却を進めていても買手が付かないこともあります。
1番抵当権者の要望で販売価格が高過ぎるのに値下げできないことが原因です。
その結果、売れずに時間だけが経過してしまい、任意売却に与えられた時間を過ぎたため競売申立となります。
3.後順位抵当権者が任意売却に協力しない
先に説明したハンコ代に後順位抵当権者が納得しない場合、業を煮やした1番抵当権者が競売での回収を決断した結果です。
任意売却業者としても避けたいものですが、金融機関の方針で任意売却に応じないこともあります。
いったん競売の申立てが行われてしまうと、その後は1番抵当権者が任意売却に応じないこともあります。
その他に、競売の申立後は裁判所の評価額を基準に『〇〇〇万円以上回収できれば任意売却に応じる』など、提示価格が任意売却の想定価格よりも上がってしまうこともあり、条件は厳しくなってしまいます。
一言でいえば、任意売却を成立させるには限りなく困難と言えるでしょう。
そもそも2番抵当、3番抵当など後順位抵当権者がいる状況での任意売却は簡単ではありません。
任意売却を検討するならば、競売へ進行する前に専門家へ相談することを強くお勧めします。