リースバックは任意売却後の残債があると難しい

リースバックは任意売却後の残債があると難しい

『中小企業の経営者向けにリースバックする』という営業電話が掛かってくることがあります。

基本的に営業電話はお断りしていますが業務にも関係あるため、こちらから気になることを質問してみると答えはハッキリしています。

そもそもローンを滞納中の方は対象者ではないとのこと。

正直なところ当事務所の相談者に多い、住宅ローンや他の不動産担保ローンを滞納している方の役には立ちません。

それでは、住宅ローンや他の不動産担保ローンの滞納についてインターネットで検索すると必ず出てくるリースバックとは、実際どのような条件で成立するのか??

任意売却にも精通した専門家が詳しく解説します。

目次

想像以上に厳しい条件

 住宅ローンや事業者の不動産担保ローンでも滞納が続いた結果、リースバックに望みをかける方が多くいらっしゃいます。

また、インターネット上にも言葉が氾濫しているので、簡単に成立するような気にもなります。

しかし、実際に利用できるのはローンを滞納中でも、自宅等の不動産売却時には、借金が完済できる場合など、大変厳しい条件がつきます。

借金が不動産の価値を上回るオーバーローンの状態では、リースバックを実現し『住み続ける』は難しいのが現実です。

従って、借金を完済できないケースでは、リースバックの条件に合致しないことになり、任意売却とリースバックの組合せは(ほぼ)不可能と理解していただいて差し支えありません。

リースバックと任意売却は相容れない

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国土交通省からはリースバックのガイドブックで注意喚起

 リースバックに関係するトラブルが発生しているため、令和4年6月に国土交通省より『住宅のリースバックに関するガイドブック』が出されました。

『国土交通省では、 住宅の「リースバック」 について、 有識者や不動産業界団体で 構成する 「消費者向けリースバックガイドブック策定に係る検討会」での議論を踏 まえ、 特徴や 利用例、トラブル例、利 用する際のポイント 等を 取りまとめた 消費者 向け の ガイドブックを策定・公表しました 。』

国土交通省ウェブサイトより

その後、独立行政法人国民生活センターからは、国民生活12月号WEB版で『リバースモーゲージとリースバック』の中でも注意を促しています。

『近年、高齢者世帯を中心に、リフォームや住み替え、老後資金の確保等を目的として、「リバースモーゲージ」を活用した融資や、「リースバック」を活用した不動産取引が増加傾向にあります。

一方で、リバースモーゲージやリースバックは、複雑なしくみについての消費者の理解度は十分でなく、トラブルも発生しています。特に、リースバックについては、高齢者に対し強引な取引を迫る悪質な事業者も散見され、問題となっています。

老後資金の準備と住宅資産活用の現状、リバースモーゲージとリースバックのしくみや利用上の注意点を解説し、高齢者の自宅売却トラブルについて最新事例を紹介します。』

独立行政法人国民生活センター国民生活12月号 2022年12月号【No.124】(2022年12月15日発行)より

 注目してほしいのは、どちらも主に高齢者の自宅を利用した資金調達の方法としての記載であり、決して住宅ローンを含む不動産担保ローンの返済に窮した方についての説明ではない点です。

繰り返しとなりますが、住宅ローンや事業者の不動産担保ローンの返済が厳しい方にとって、リースバックで対応するのは困難な方法だと理解していただきたいのです。

リースバックは資金調達の手段でも借金の返済苦には適さない

リースバックに協力する投資家は安いから買う

 ここまでの説明でも、まだリースバックに期待を寄せる方もいることでしょう。

それでは、リースバックを成立させるには必ずや登場する投資家の存在について、少し考えてみてください。

リースバックでは投資家が買取り、そのまま貸してくれるので安心できるようなイメージかもしれません。

しかし、実際には投資家がリースバックに協力してくれる訳ではなく、投資に対するリターンを計算しているに過ぎません。

つまり、それなりのメリットが無い限り、リースバックを条件に不動産を買取ってはくれません。

× 投資家=協力者
〇 投資家=リターンを求める

不動産を投資目的で購入する人は、求めるリターンが確保できれば買取ってくれます。

裏を返すと安く買取ることができれば、その分リターンが増えます。

ここは重要なポイントで投資家は安く買うことが前提です。

では、仮に投資家の購入価格では住宅ローンが完済できない場合はどうなるでしょうか!?

当然、住宅ローンを貸している金融機関は最大限高値で売却することを求めるため、投資家の購入価格では納得することはありません。

それゆえに住宅ローンや他の不動産担保ローンも含め借金が完済できないケースでは(ほぼ)リースバックは成立しません。

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リースバックの条件には最大限の注意を要する

 仮に幸か不幸かリースバックが成立したとしても、立場は弱くなかなか希望する条件では難しいでしょう。

多くの場合、以下のような条件を飲まざるを得ません。

<提示される条件>

  1. 定期借家契約で更新不可・ほとんどの場合が数年の契約期間
  2. 保証人は必須・しっかりとした保証人や保証会社による保証を求める
  3. 買戻し価格・売却した時のように安値ではない

 リースバックを詳しく知れば、自身にとって本当に得策なのかと疑いたくもなると思います。

条件などについても、先に紹介した国土交通省の『住宅のリースバックに関するガイドブック』及び国民生活センターの国民生活12月号WEB版『リバースモーゲージとリースバック』の中で強く注意を呼び掛けています。

1.定期借家契約で更新不可

 住宅ローン等の返済苦でリースバックを希望する方は、住み慣れた家を様々な理由で離れたくありません。

しかし、リースバックの際は長期での契約は難しくなります。

また、長期間の場合は高額な家賃設定であれば、可能となるケースもありますが多くの場合、定期借家契約を求められ契約期間終了後は明け渡さなければなりません。

終の棲家ではなく一時的な仮住まい

2.保証人は必須

 少し考えてみてください、投資家がリースバックして困ることは何でしょうか?

借りている入居者が家賃を払わないこと『家賃の滞納』です。

そういった事態に備え、安心できる保証人を求めます

現在では賃貸人の保証を代行する保証会社を利用することがほとんどです。

しかし、住宅ローンを滞納の末、自宅を売却するようなケースでは保証会社の審査をパスできない可能性もあり、その際は身元のしっかりした保証人が必要です。

保証会社か保証人は必須

3.買戻しの価格

 将来的に買戻したいと希望しても、売った時と同じ価格とはいきません。

あらかじめ買戻し価格を決めていたとしても、更に高値で買取る者が現れれば投資家は安く売る必要は無くなります

また、買戻しまでの期間が短かったりすれば、買戻し資金の用意も簡単ではありません。

実現するには、他に協力者に頼る必要があるかもしれません。

リースバック後の買戻しは非現実的

リースバックの実現には協力者が必要

 ローンが完済できないオーバーローンの状態(任意売却)でリースバックを希望する場合、身内など資金的にも余裕のある、協力者が必要になります。

金融機関が任意売却を認める価格で購入できる協力者、つまり、投資家のように利回りに期待するのではなく、あくまでも、助けてくれる者の存在が欠かせません。

『住み続ける』に期待して任意売却を検討しても現実には、協力者無しに利用できる方は少なく、ほとんどの方は希望通りにはいきません。

任意売却時のリースバックは協力者次第

リースバックを成立させるポイント

 リースバックを成立させるため、大切なポイントは2つです。

<リースバックのポイント>

  1. 不動産の売却でローンを完済できるか?
  2. 投資家の求める家賃が払えるか?

  上記の2点をクリアできると、投資家等の第三者によるリースバックの現実味が出てきます。

1.不動産の売却でローンを完済できるか?

 住宅ローンでも他の不動産担保ローンでも、滞納しているものの売却時には完済となれば、金融機関が価格に注文を付けることはありません。

投資家など第三者によるリースバックを成立させるには大変重要なポイントです。

リースバックはローンの完済で可能性アップ!

2.投資家の求める家賃が払えるか?

 投資家の購入価格でローン完済の目途があれば、次に重要となるのは投資家の求める家賃設定です。

投資資金を回収するための家賃設定が高く、とても払っていけないような金額であれば、そもそもリースバックは成立しません。

仮に今まで返済していた住宅ローンの返済額と同等であれば、無理な話であり現実的に支払い可能な家賃設定かどうかが成否を分けます。

支払い可能な家賃設定

訳アリ物件はリースバックに最適なケースも

 住宅ローンや他の不動産担保ローンの滞納時、あるいは返済苦の場合、リースバックを成し遂げるにはローンの完済が必須と書いてきました。

しあし、そこには例外もあります。

訳アリ物件とされる不動産はローンが完済できないケースでも、リースバックが成立することがあります。

訳アリ物件でも何らかの問題を抱えておりますが、実際には居住できる不動産であれば、価格次第で売却は可能となります。

一般的に訳アリ物件は、不動産として売りづらい部類に入りますので、価格を低くしないと売却できないことを金融機関も認識しているからです。

ここでは、以下に該当する不動産を訳アリ物件とします。

〈訳アリ物件〉

  1. 事件・事故物件
  2. 再建築不可物件
  3. その他の難あり物件

1.事件・事故物件

訳アリ物件の代表格である事件・事故物件です。

あまり説明の必要はありませんが、殺人事件の現場や自殺・不慮の事故等で人が無くなってしまった不動産が該当します。

2.再建築不可物件

 再建築不可物件とは、現時点で建物があっても建替え(再建築)の許可が下りない不動産を指します。

既存の建物を修繕しながら使い続けるしかない不動産となります。

建築時は許可が出ても、何らかの理由で現在では建築の許可が下りない既存不適格物件も含みます。

賃貸人からすれば、建替えが可能かどうかは賃料に影響しないため、リースバックを希望する場合は特に好都合です。

3.その他の難あり物件

 長く続く階段の上に位置する場合や自動車が家の前まで来れないような細い道に接道するケースなど、一般的に価格に影響するような問題がある物件を指しています。

訳アリ物件でも人が住めればリースバック成立の可能性アップ!

借金苦はリースバックで解決できない

 最近ではこのリースバックが注目され、住宅ローンで悩む人々と投資家をマッチングして、解決へと導くような表現が多くみられます。

子供の学区の問題など、賃貸になっても住み続けたいという思いで、相談する方は多いと思います。

目安としては、ご自身の不動産が売却すれば借金を完済できそうであれば、リースバックも可能かもしれません。

しかし、そうでなければ『住み続ける』ことはできず、売却後の引っ越しは避けられないでしょう。

根本的には、住宅ローンなどの借金問題が解決できるからリースバックが可能となり、借金の清算無くして、リースバックの成立は困難と言えるでしょう。

リースバックの可能性を探りたい方は、不動産の価格査定を含め対応を検討することをお勧めします。

※ ローン滞納時にはリースバックにこだわり過ぎて競売が回避できない状況に陥らないよう、都合のいい言葉には注意してください。

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この記事を書いた人

小田嶋譲のアバター 小田嶋譲 代表取締役

 有限会社 O&Trade代表 大学卒業後、不動産会社と譲渡債権回収の金融機関での勤務経験を経て独立。最近では特に自営業者の不動産担保ローンや不動産投資の失敗による相談が数多く寄せられ、お金と不動産の専門家、FP宅建士として難易度の高い任意売却に精通し、不動産に関わるお金の悩みの解決に取組んでいます。

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