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代物弁済で不動産が取られた後に任意売却で解決!
令和の前になりますが、大阪にお住まいの方から『借金が払えなくなり、もうすぐ一戸建の自宅を取られる!その前に任意売却したい』という緊急相談がありました。
この時、相談者は分かっていなかったのですが、事実上もう既に不動産は取られてしまった後でした。
ただし、登記名義人がまだ相談者だったことが幸いして、何とか任意売却を成し遂げることができた事例です。
銀行や大手ノンバンクでは、あなり行わない融資方法ですが「借金で金融機関に不動産が取られる」ケースがあるという事実を伝えたくて記事にしています。
任意売却に精通するFP&不動産コンサルの有資格者が「代物弁済で不動産が金融機関に取られた後に任意売却で解決した事例」を紹介します。
訴訟にも発展しながら任意売却を進めた、かなり特殊な案件です。
「街金」という言葉が適切かは分かりませんが、小規模な金融機関で借りている方で同様のケースがあれば参考にしてください。
通常の不動産担保ローンは不動産を取らないが代物弁済は別
住宅ローンは払えなくても、お金を貸した金融機関が不動産を取る(金融機関名義にする)ということは通常ありません。
そのため、住宅ローンの返済が滞れば、競売で第三者に落札してもらい貸付金を回収します。
今回の相談者も「競売で人手に渡ってしまうことを恐れている?」と当初は思っていました。
競売以外で不動産が人手に渡る?
代物弁済で不動産が取られることもある
ところが話を聞いていると、少々気になる「代物弁済」という言葉が出てきました。
借りているのは銀行等の住宅ローンではなく地元の金融機関、もしかして代物弁済予約の契約をしているのではないかと嫌な予感。
代物弁済とは読んで字のごとし、物で代わって弁済します、今回の相談者に当てはめると、その物とは不動産になります。
つまり、相談者の心配する、本当に不動産を金融機関に取られてしまう可能性があることになります。
しかし、夜のため登記事項の確認もできず、翌朝一番で調べて連絡することにしました。
不動産が本当に取られてしまうのか?
代物弁済予約
登記情報提供サービスの開始を待って確認すると、やはり予感は的中、金融機関とは代物弁済予約の契約をしているようでした。
しかも、代物弁済の金融機関は2番抵当(以下、2番抵当とします)、他のノンバンクが1番抵当を設定、その他に役所の差押えまでありました。
相談者の状況を以下に記載します。
〈相談者の状況〉
- 大阪市在住:自宅を担保に借入、現在も居住中
- 登記名義:土地建物ともに相談者
- 1番抵当:1,000万円(大手ノンバンク)
- 2番抵当:600万円(地元のノンバンク)代物弁済予約の登記
- 役所差押:45万円(市民税・国民健康保険料)
上記すべて滞納中
多重債務に陥った挙句、税金も納付できない状態です。
登記事項を見るだけで3者との合意を取り付けなければ任意売却は不可能となります。
かなりの困難は予想されます。
それでも相談者が本当に任意売却を希望されるか確認すると『不動産を取られてしまうのは不本意なので任意売却したい』とのこと、早速そのための準備となりました。
相談者の「不動産が取られる」が正しかった
任意売却の交渉窓口が弁護士事務所
実は前日の相談で、代物弁済の金融機関とは弁護士事務所を介して連絡していると聞いていました。
これは代物弁済を理由に「不動産の登記名義を金融機関に変更するよう裁判所に提訴する準備」を既に行っていることを意味します。
この段階では何とも言えませんが、任意売却のハードルは相当高いことに間違いありません。
当事務所も任意売却に精通する不動産業者ですが、債権者側として交渉する相手は主に銀行やノンバンクを含めた金融機関、保証会社やサービサーです。
今回は、債権者側の窓口の1つが弁護士事務所となります。
よほどの大口案件とならない限り、それ自体レアケースでしょう。
債権者側の窓口が弁護士事務所
債権者と任意売却の交渉へ
その後、相談者から専任媒介契約書にサインを頂き、正式に任意売却スタート。
まずは金融機関にそれぞれ連絡、1番抵当のノンバンクは任意売却で遅延損害金を合計しても満額回収できそうです。
そのため、3か月の販売期間は競売の申立てを待ってくれることになりました。
問題は2番抵当です。
窓口となっている弁護士事務所に連絡すると、前述の訴訟を2~3週間後には行いますとのこと。
相手は本気で不動産を取りに来ていますが『任意売却に応じますか?』の問いには『完済すれば可能』との返答。
〈債権者の任意売却の反応は?〉
- 1番抵当:満額回収のため任意売却は問題無し
任意売却に3か月の時間的猶予 - 2番抵当:完済なら任意売却可・・・
その他に役所の差押えもあるため、予想通りかなり難しい展開ではありますが、2番抵当も任意売却を断りはしていません。
裏を返せば、要は金額次第とみて間違いないでしょう。
2番抵当も任意売却が不可な訳ではない
任意売却がダメな理由は無い
任意売却が無理と決まったことは何もありません。
借金の合計額と役所の滞納分、諸費用等を足した金額を売買価格に設定し、まずは販売を開始することにしました。
実際、当事務所の査定価格より少し高めの販売価格なので、淡い期待を込めて販売スタートです。
すると不動産業者から購入したいとの申し込みがありました。
しかし、当然購入希望価格もかなり低い金額でしたが弁護士事務所に連絡、元金の半分以下しか回収できないため、あっさり拒否。
そして、これといった話もなく2か月が経過しました。
1番抵当のノンバンクは残り1か月を過ぎれば競売の申立てを行います。
このままでは競売の可能性は高くなります。
競売の申立てまで残り1か月
2番抵当の狙いは?
競売の申立まで残すこと1か月となりました。
ここからは任意売却の専門業者としての違いを出さなければ、お客様(相談者)が当事務所に任意売却を依頼した意味がありません。
唯一の望みとして、2番抵当は1番抵当のノンバンクが競売を申立て、落札されてしまうと対抗できずに代物弁済で不動産を自社の名義にしていても、人手に渡ってしまいます。
そこを交渉材料に弁護士事務所に連絡すると、その際は1番抵当のノンバンクに対して残債を払い抵当権を消滅させて対処するとの返答。
つまり、代物弁済で自社名義の不動産にした場合は、1番抵当の借金は払ってしまい完全に自社の物にする算段です。
2番抵当は1番抵当へ返済して自社所有にするとの主張だが・・・
任意売却の方がメリットがある
2番抵当は、本当に不動産を取ると貸したお金も回収できず、更に追加で約1,000万円程必要となります。
また、資金だけでなく、今度は販売する手間もかかり、本心ではないことは容易に想像できました。
これまでは相場より若干高い、借金が清算できる金額をベースに販売価格を設定していました。
正直なところ、このままでは時間だけがムダに過ぎてしまいます。
そのため最終的な決断を迫る意味でも、弁護士事務所へ連絡し当事務所で査定した『不動産市場での適正価格で販売するので、その際は任意売却に応じてもらえないか?』と再度、持ち掛けました。
結果的には『具体的な購入申し込みがあったら相談に乗ります』との返答をもらいました。
やはり、2番抵当も任意売却で早めに回収できることを実際は望んでいるのが分かりました。
任意売却が2番抵当にも好都合なのが明らか
適正価格での任意売却スタート
すぐに販売価格を引き下げ、気を取り直して販売スタート。
そして、1番抵当のノンバンクと約束した期限間近になって、正式な購入申し込みがありました。
買主様の購入希望価格は少々の指値(値下げの希望)がありましたが、そのまま弁護士事務所に連絡すると悪くない金額だけど、すぐには返答できないので依頼者の2番抵当と相談し、後日連絡する運びとなりました。
任意売却の成立が近づいてきたが・・・
任意売却に向けた調整
弁護士事務所の反応も良かったのですが、同時に役所の差押えも解除に向けた交渉が必要になります。
役所へは事前にお客様と一緒に訪問し、担当者に任意売却時の全額納付は難しいので、一部納付で残りは分割納付のお願いしたところ、具体的な話になれば相談に乗りますと前向きな返答もらっていました。
ところが、具体的な話になると、手のひら返しの全額納付以外は差押えの解除に応じませんとの態度。
ある程度は想定内だったので、まずは弁護士事務所からの連絡を待ちます。
そして数日後、弁護士事務所から、もう少し買値を上げてもらえないかと具体的な金額の提示が初めてありました。
任意売却成立の予感
買主様に任意売却への協力要請
任意売却を成立させるには、役所の差押え分も含め、買主様に購入価格の引き上げをお願いすることにしました。
購入価格の引き上げとなっても、販売価格よりは少し値下げできたため、買主様も快諾して頂き、やっとのことで任意売却に向けた交渉がまとまりました。
しかし、肝心な1番抵当のノンバンクと約束した、競売申立ての期限が目前に迫っています。
購入希望者は、一般の方なので住宅ローンの申込等、ある程度時間が必要です。
更に期間の延長をお願いしたところ、競売での回収は望んでいないのでと、何と「2か月間も待ってくれる」ことになりました。
それでも年末年始を挟んでいるので、ほとんど余裕はありませんでしたが、無事に任意売却で取引を終え、買主様に引渡すことができました。
無事に引渡し任意売却終了
任意売却中も進む訴訟
ここまで、あまり訴訟については触れてきませんでしたが、実際は2番抵当の訴訟は任意売却中も進んでいました。
そして、依頼者の手元に裁判所から訴状も届き、勝ち目がない裁判なので欠席したため、1週間後には判決も出ていました。
ただし、2番抵当も買主様のローン審査が終われば元金を上回る回収ができるため、任意売却での取引を選んだ形です。
上の画像は裁判所から届いた訴状の1面
上の画像は裁判所の判決文(PDF)
判決の主文を簡単に説明すると
〈判決をもう少し易しく〉
- 被告(債務者)に対し、不動産の登記名義を原告(2番抵当)に変える手続をしなさい(代物弁済により、本当の不動産の所有者が原告(2番抵当)としている)
- 被告(債務者)に対し、原告(2番抵当)へ建物を明渡しなさい。
- 被告(債務者)に対し、平成○年○月○日から建物の明渡しまで1か月8万円を原告(2番抵当)へ支払いなさい。
- 弁護士の費用ではなく、印紙代や交通費、書類作成費等になります。
- これは、被告(債務者)が、この判決を不服として控訴した等、判決が確定するまで時間が掛かる場合でも、2、3にだけは強制執行を認めていることになります。
実は、もう既に不動産の所有者は2番抵当の金融機関であることを裁判所も認めており、登記名義を変更しなさいとの判決です。
更に、建物も明渡しまでは賃料を支払いなさいとされているのです。
つまり、実際は当事務所へ救いを求める電話があったとき、もう所有者ではなかったことになります。
本記事のページ冒頭の「相談者は分かっていなかったのですが、事実上もう既に不動産は取られてしまった後でした。」とはこのことを意味しています。
裁判所から見れば、依頼者が占有していたことになります。
ただし、登記名義人は相談者だったため本当の所有者(2番抵当の金融機関)が協力したため任意売却という形で不動産売買ができました。
役所以外の関わるものが協力して任意売却成立
今回の任意売却の解釈は本当に難しい
訴訟の件を含めて見てしまうと、一般の方は大変分かりづらいと感じるでしょう。
また、解釈としても大変難しいのですが、「2番抵当の金融機関が不動産の所有者として裁判所も認めている」
2番抵当の金融機関は代物弁済によって、不動産を手中に収めました。
本来、代物返済により不動産を取得した場合、その借金は返済済みとなります。
そのため、今回の任意売却のお金の流れを見てみると、2番抵当の金融機関は返済について現金で受領しています。
少々、矛盾が生じてしまいます。
解釈としてはどう見るべきなのか・・・
2番抵当の金融機関としては、代物弁済により不動産を手に入れたが任意売却が成立するので、代物弁済で不動産を入手するのは、遡ってやっぱり止めたとなるのか?
正直なところ筆者にも判断ができません。
それでも、「登記名義人が相談者であったため任意売却は成立」しました。
任意売却としては問題なく取引
難しい任意売却が成功した理由
今回の非常に困難と思われる任意売却を成し遂げられたのは、まず、買主様が臆せずに購入に踏み切ってくれたこと。
その買主様に、物件を共同で仲介してくれた地元の不動産業者、競売を待ってくれたノンバンク、役所の差押えに対して全額納付を認めてくれた代物弁済の金融機関(2番抵当)、関わる方が前向きに協力してくれたことでしょう。
そして、任意売却で重要な適正価格での取引が最終的には決め手だったと思われます。
その理由は取引最終日、代物弁済の金融機関(2番抵当)の代表者と顔を合わせたとき、自社の不動産の評価額と任意売却での成約価格との差額はわずか30万円少ないだけとのことでした。
そのため、早期に回収できる任意売却を選択されたようです。
余談になりますが任意売却中、多くの不動産業者から物件の資料請求や状況の説明を求められる中で、2番抵当の代物弁済の金融機関は『ゴリゴリの金融屋でかなり手強いですよ!』とアドバイスしてくれた業者もいました。
それでも売主様の経済状況も良くないため、引っ越し費用も売買代金の中から認めてもらいました。
それもこれも任意売却に満足してくれた結果だと思います。
適正価格での任意売却は債権者も満足
早めの相談が救い
一般的な任意売却の例を記事にしても、あまり参考にならないと思いますので、特殊な例として長々と書かせて頂きました。
今回の「代物弁済」は、任意売却においてもあまり馴染みがないものです。
記事冒頭でも銀行や大手ノンバンクでは、あなり行わないと書いてきましたが、最近では高齢者が自宅の不動産を担保に資金を確保する「リバースモーゲージ」では代物弁済も扱っています。
そのため、今後は相談件数も増える可能性もあります。
いずれにしても、相談者が競売の申立て前だったこともあり、任意売却が成立しましたが、既に競売の申立て後であれば、望みは無かったと思われます。
今回のケースも大急ぎで取り組みましたが、電話相談から任意売却で取引を終えるまで半年を要しています。
任意売却は、購入希望者がいても話がスムーズに進まないことも多々あります。
その際、助けとなるのは交渉に必要な時間となります。
住宅ローンや他の不動産担保ローンでお悩みの方は、可能な限り早めにご相談下さい。
任意売却で時間切れは競売を意味する