物上保証人からリースバックが絶対条件の任意売却

物上保証人からリースバックが絶対条件の任意売却

 今回の記事はレアケースで印象の深かった、決して忘れることのできない懐かしい任意売却を紹介します。

都心のど真ん中、ビルが立ち並ぶ一角に先祖から受け継いだ古い木造家屋にお住いの方から任意売却の相談がありました。

わずか40坪ほどの土地に数億円もの抵当権、ところが相談者名義の自宅ではありますが、借金は別人が借りたものでした。

目次

土地が他人の借金の担保

 本人の借金ではないので、いったいどのような経緯で任意売却を希望するのか?

それは、相談者の土地を担保に親族の経営する会社が、お金を借りていたことが原因でした。

もちろん、相談者(所有者)も同意の上で担保を設定していますので、何かあれば無傷ではいられないのは理解されています。

その上で弁護士にも相談し、不動産を手放さずに済む方法は無いことが分かり、ある条件のもとで任意売却を進めたいとのご希望でした。

相談者から条件付きの任意売却

物上保証人という立場

 依頼者の立場は不動産の所有者ですが、お金を借りた当事者いわゆる債務者ではありません。

不動産を第三者の借金の担保として提供した物上保証人となります。

物上保証人とは、あまり聞きなれない言葉ですが保証の範囲が限定された保証人です。

相談者の保証する範囲は担保の不動産の分のみなので、担保不動産を売却し、返済に充ててしまえば、それ以上の義務はなくなります

連帯保証人のように借金全部について保証しているのではなく、担保分のみと限定されていることが大きな違いです。

担保は処分されるが、それ以上の負担は無い!

物上保証人の意志で競売は止められない

 元々は親族の会社がきちんと返済していれば、何も問題はありませんでした。

ところが返済を滞ってしまったので、銀行から物上保証人である不動産の所有者(相談者)に対して売却を打診されました。

悩んだ挙句、銀行の意に反し、滌除(※『てきじょ』現在はできません)を試みてしまいした。

しかし、思いもむなしく銀行は、あっさりと断り、すぐさま競売の申立てへ。

ことの経緯は以上ですが、肝心な任意売却の相談は競売の申立て後、しばらくしてからだったのです。

返済が滞ると金融機関に対抗できない

※ 滌除とは、この金額で勘弁してくださいと提示し、金融機関が応じれば担保から外れます。金融機関が断るとその金額の1割以上高く競売で落札されないと金融機関が保証する必要があります(非常に大雑把な説明で申し訳ありませんが、現在この制度はありません。)

依頼の条件はリースバック

 冒頭にも書きましたが、依頼者はある条件付きでの任意売却を望んでいます。

その条件とは、約1年間のリースバックだったのです。

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リースバックが可能になるならば任意売却を進めたいけれど、それが無理ならば競売でも構わないと覚悟を決めていました。

確かに約1年間のリースバックであれば、実際は競売での落札後も半年程度は居座ることも可能なため、それほど期間に差はありません。

ご自身の借金でもないためお金に困っている訳でもなく、引っ越しに少し時間を持たせたかったのです。

この任意売却を成立させるには、以下の3つが整わなければなりません。

<3つの要件>

  1.  銀行が任意売却に応じる価格
  2.  リースバックしてくれる買主
  3.  開札まで短期間での取引完了

 任意売却を多少でも知っている者であれば、相当ハードルは高いと一目で分かると思いますが、どれか一つでも欠ければ任意売却は失敗に終わります。

1.銀行が任意売却に応じる価格

 銀行が任意売却に応じる価格は、ある程度想定して交渉する必要があります。

そうは言っても、競売申立て後のため時間的余裕もありません。

こちらで提示した金額から銀行の担当者が稟議を上げ承認される過程を考慮すると、一度断られてから次の価格交渉を行う余裕は無いため、ほぼ一発勝負となります。

幸いなことに容積率が高く賃貸住宅の需要も盛んな地域だったため、買手を投資家に定めて綿密な投資プランを作成し価格を決定しました。

抵当権の額からすると5分の1ほどでしたが、銀行の社内稟議が通りやすいよう任意売却時の控除費用の調整(意味の分からない表現ですね、任意売却成し遂げるテクニックみたいなものとご理解ください)も行いました。

2.リースバックしてくれる買主

 この任意売却の要は、約1年間のリースバックをしてくれる買主を探すことです。

しかしながら、1年間のリースバックが条件となっているため、買主は購入後から1年後に更地にした後、賃貸マンションを建設するというステップを踏みます。

〈買主の投資プラン〉

購入

1年間のリースバック

賃貸マンション建設(期間1年超)

賃貸収入

 投資資金の回収がスタートするのが土地の購入後、2年以上経過してからとなります。

かなり難しい案件であるため、多くの投資家へ持ち掛けることに・・・

その結果、幸運にも条件に応じる買主を見つけることができました。

まだリースバックという言葉も日本ではあまり聞かれることは無かったため、かなりの特殊案件だったことは間違いありません。

3.開札まで短期間での取引完了

 実は、上の2.リースバックしてくれる買主を見つけたと書いていますので、取引完了までの条件は整えていました。

あえて3.開札まで短期間での取引完了としているのは、この任意売却の買主は購入後に投資用マンションを建設しなければ全く採算が合いません。

この〈買主の投資プラン〉に融資する金融機関も期待できないのと、金融機関に案件として持ち込み返答をもらえる時間的余裕は、ほぼありませんでした。

買主がリースバックはOKでも、金融機関の融資を利用するとなれば綱渡り状態です。

そのため現金で購入できる買主を探せたため、この開札まで短期間での取引完了の問題は何とかクリアできました。

任意売却に応じた金融機関

 <3つの要件>の内、残すは1.銀行が任意売却に応じる価格だけですが、努力の甲斐あってか銀行からも任意売却に応じる旨の返答をもらうことができました。

ところが本当に競売の開札まで時間が残されていないため、銀行が間に合うのかと心配する事態にまで発展しました。

しかし、買主の投資家は現金での購入のため結果的に間に合ったのですが、取引終了が競売開札の前日でした。

競売の取下げについて調べた方はご存じですが、開札の前日が任意売却できるリミットです。

それでも任意売却において、開札の前日に取引を終えるような設定は通常は行いません。

それくらいレアなケースであり、筆者としては後にも先にもこれが初めてとなり今後も無いことを願います。

ギリギリのところで競売回避となりましたが、焦らず(焦っていたかも)任意売却に向けた下準備をきちんと整え、一気に交渉したのが功を奏したのかもしれません。

開札前日の任意売却は避ける

物上保証人の任意売却も所有者が決断

 必ずしも借金した本人だけでなく、物上保証人として不動産を担保提供している限り、このようなケースは常に考えられます。

特に、その不動産が自宅の場合、住む場所を失ってしまいます。

ご自身の借金ではないのに不動産を手放すのは理不尽なことですが、金融機関も待ってはくれません。

そして、不動産の所有者が決断しない限り、任意売却はできないこともご理解ください。

任意売却の決定権は所有者にある

 ※ 物上保証人が不動産を売却して返済に充てる際、間違った方法を選択すると税金の納付が必要になるケースもありますのでご注意ください。

リースバックは協力者が必要

 上記のケースでは幸運にもリースバックが可能となりました。

任意売却後にリースバックを希望される方の多くがオーバーローンです。

つまり、任意売却しても残債を抱えてしまう状態です。

余程の好条件が重ならない限り、残債があるケースでのリースバックは成立させるのが難しいと考えて下さい。

その理由は、投資家の求める価格と金融機関が応じる売却価格に開きが生じてしまうからです。

どうしても、オーバーローンでのリースバックがご希望の場合、身内等による協力者が必要となります。

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忘れられない任意売却はいつだったのか

 長々と記事を書いてきましたが、読み手としてはいつの話なの? 気になると思います。

当時の資料を見返し確認しましたが任意売却で取引を終えたのが平成16年(2004年)です。

相談者が銀行に滌除(※『てきじょ』現在はできません)を試みたのが前年ということになります。

なぜなら、滌除の制度が廃止されたのが平成15年(2003年)だったからです。

筆者が任意売却と関わるようになった当初の話で、ずいぶん昔の任意売却でありますが、今も昔も競売回避には任意売却が用いられていることは変わりません。

物上保証人からリースバックが絶対条件の任意売却

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