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退職金の減額で1人親方が老後破綻のリスクに!

自分の腕一本でやっていける職人の世界では、親方である自分が辞めない限り、定年はありません。
特に日本の建設現場では大規模なビルやマンションでも、個々の職人に支えられ成り立っています。
その中でも他人を雇用しない、また、他人に雇用されない一人親方と呼ばれる職人の方もいます。
そして、何よりも頼もしいのが、そういった1人親方などの職人を支える退職金制度があることです。
しかし、昨今の低金利政策により、運用利回りの低下で老後に大切な退職金についても、大幅な減少が見込まれます。
この記事は、FP&不動産コンサルの有資格者が「建設業退職金共済(建退共)」の事例を基に、退職金の現実について解説します。
老後も続く住宅ローンの返済が不安な方は、老後破綻を回避する参考にしてください。
1人親方の退職金制度
いつかやってくる現場を去る日のために、1人親方でも加入できる退職金制度があります。
それは、政府の作った「建設業退職金共済(建退共)」です。
もちろん、職人も含め建設現場で働く方であれば、国籍なども関係なく、ほとんどの方が加入できる制度です。
独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する、建設現場で働く人たちのための退職金制度(建設業退職金共済事業)です。
ただし、1人親方の場合は、任意組合を利用しての加入となります。
以下、引用します。
〈1人親方は任意組合で〉
建設業では、大工・左官とび職の親方のように、あるときは事業主の立場にたち、あるときは技能者として労働者の立場にたつ、いわゆる1人親方がいます。
1人親方(1人親方とともに働く技能修得中の者を含みます。)が集まって任意組合をつくり、当機構がその規約について認定したとき、その任意組合を事業主とみなし、個々の親方などはその事業主である任意組合に雇われる労働者とみなすことにより、制度を適用することにしています。
※事業主が法人の代表者、あるいは役員報酬を受けている方は、加入できません。
<加入する方法>
建設業退職金共済事業本部ウェブサイト制度について「3.加入の条件」より抜粋
- 1人親方が集まって任意組合をつくるときは、「任意組合認定申請書」に規約及び業務方法書を添えて、都道府県支部にお申し込みください。
認定を受けましたら、「共済契約申込書」と「共済手帳申込書」に認定書の写しを添えて都道府県支部にお申し込みください。
共済契約が結ばれますと、都道府県支部から「共済契約者証」と「退職金共済手帳」が交付されます。- 1人親方が既存の任意組合に加入して、建退共制度の適用を受けることもできます。
既存の任意組合については、都道府県支部にお問い合わせください。
加入条件をクリアし1人親方でも月々の掛金を払えば、退職金が受取れる仕組みで、老後を迎えるための貴重な収入です。
今までは、きちんと掛金を払い続けていれば、非常に有利な退職金制度(東京土建の例を参考)でした。
2020年9月の試算では、30年掛金を払った試算では約505万円、40年で約812万円となっています。
しかし、2021年10月以降の試算では運用利回りが大幅に低下し、30年で約304万円、40年で約427万円となりました。
具体的な「掛金総額」と受取れる「退職金の額」を比べれば、その差は明らかです。
以下、ご覧ください。
〈建設業退職金共済(建退共)の試算例〉
2020年9月の試算 運用利回り3%
- 30年 掛 金 279万円
退職金 約505万円 - 40年 掛 金 372万円
退職金 約812万円
2021年10月以降、運用利回りの大幅変更
2021年10月以降の試算 運用利回り1.3%
- 30年 掛 金 約242万円
退職金 約304万円 - 40年 掛 金 約322万円
退職金 約427万円
2020年9月の試算では、それなりの金額となり、40年掛け続ければ、倍以上になります。
しかし、それも過去の話しとなりました。
2021年10月以降の試算では、ゆとりを考えられるような金額でないのは明らかです。
もちろん、2021年10月から運用利回り1.3%となりますので、それ以前の分に関しては影響ありません。
また、ここ数年で退職金を受取る予定の方は、短期間のため影響は少なくて済みます。
しかし、10年、15年、あるいは20年先に退職金を受取る方にとっては、かなりの額が減少してしまうのは目に見えております。
過去のサイトやパンフレットを見て分かる通り、何だかアピールも控えめになってしまいました・・・
東京土建パンフレット2021年春より抜粋
東京土建ウェブサイトより2023年12月画面キャプチャ
退職金の受取額が大幅に減少
まさに、昨今の低金利政策の弊害と言わざるを得ないでしょう。
当然、今後の運用利回り見直しの可能性もありますが、誰にも将来を予測することはできません。
退職金を当てにしていると大打撃
退職金の減額で住宅ローンの繰り上げ返済に狂いが生じる
例えば、この退職金で住宅ローンを完済、日常生活は年金で足りれば夫婦2人で暮らしていけるかもしれません。
ところが退職金の減額により、住宅ローンを完済できずに、返済があと数年残ってしまったら・・・
何か別の収入の手立てを探さなければなりません。
しかも、建設現場では高齢のため働けなくても収入は必要です。

ささやかな老後ですら、やっていけるのか疑問です。
現役時代は稼いでいたとしても、一線を退いた後の住宅ローンはリスクの高い存在となり非常に厄介です。
住宅ローンの返済が不可能であれば、それは「老後破綻」の現実に直面しています。
住宅ローンが払えなければ老後破綻!

収入が多ければ高額の住宅ローンも
1人親方が住宅ローンを借りる場合、自営業者として金融機関は見ています。
一般のサラリーマンと比較して、自営業者は厳しい評価をされがちです。
しかし、実態は小規模ながらも、1人の経営者です。
収入もそれなりにあり金融機関によっては、かなり高額の住宅ローンも借りることができます。
現役時代は稼ぎも多く、その稼ぎに合わせて高額の住宅ローンを借りていても、返済も苦にならずに済んだことでしょう。
高額な借入は高額な返済額となる
しかし、仕事が思うようにできなくなれば、一転して住宅ローンの返済はおろか、日々の生活も危うい状況に陥ります。
裏を返せば、高額な返済が終わらないため、仕事も辞められない状況に陥る。
仕事を辞めれば住宅ローンの返済苦
住宅ローンの完済年齢は80才前後
住宅ローンの完済年齢の上限は、金融機関によってバラつきはありますが概ね80才前後です。
80才まで現役で、職人を続けられる人は限られています。
実際に職人として働ける年齢は?
冒頭で職人に定年は無いと書きましたが、80才前後の職人が建設現場で工事に携わっているというのは、あまり想像できないと思います。
同じ建設現場でも、交通誘導をされている高齢の方は比較的よく見かけますが・・・。
仕事の依頼は元請けから要請があり、下請けとして現場に入ります。
直接依頼主から仕事が入る訳では無く、元請けと親方とのつながりで仕事をこなしているような感じになります。
定年は無くても、やはり加齢による体力の限界はあるため、仕事を回す元請けも現場で事故があってはと不安になります。
加齢と共に現場を去る必要がある

住宅ローンの返済が厳しければ自宅は手放す
退職金での繰上げ返済も叶わず、住宅ローンの返済が厳しい状況となれば、どうするのが良いのでしょうか?
このままでは、やがて返済不能にもなりかねません。
実際のところ、答えは1つしかありません。
一刻も早く、自宅は手放すことです。
返済の目途が立たない住宅ローンを抱えながら、老後を過ごすことは不可能です。
また、かつてはお子さんも含めて暮らしていた家も、夫婦2人となれば持て余している可能性もあります。
この際、いい機会と捉え、住み替える決断が必要となります。
老後の新生活を新たにスタート!

親族の同居も1つの策
住宅ローンの残債の額を考慮したら、それほどでもない場合、手放すのはどうしても気が引けることもあります。
何か方法はないものか?
自力での返済が厳しければ、協力者に頼ることも考えてみましょう。
上の項で、「夫婦2人となれば持て余している可能性も」と書きました。
広すぎる家に、夫婦2人で暮らしている場合があるからです。
「息子夫婦」や「娘夫婦」と同居し、返済に協力してもらうことが、最も効果的です。
広い家ならではの、対処法となります。
お孫さんもいれば3世代同居となり、にぎやかな老後を過ごせます。
親子の同居は非常に有効
自宅を守りたいなら親族間売買
日本人にとって実家の存在は、思い出の場所でもあります。
住宅ローンが払えなくなり、もはや手放す以外の方法が見付からない場合、親族間売買という方法が残されています。
成人し独立されたお子様にとっても、生まれ育った実家を失うのは望まないこともあります。
資金調達の面でも簡単ではないのですが、「お子様に実家を購入してもらう」という選択肢もあります。
親族間売買に関しては、頼れるお子様がいない、また、お子様自身が望まない可能性もあり、家族間でよく検討する必要があります。
親族間売買は購入資金の工面がポイント

自宅に固執しすぎるのは危険
生活に合わせ住む家も変えていくことは、これから老後を迎える方にとって自然な流れです。
決して、珍しいことではありません。
むしろ、現在の自宅に執着し無理な生活を続けてしまえば、老後破綻の原因となってしまいます。
空き家が増えているこの時代に、住宅ローンで老後破綻は是が非でも避けたいものです。
老後破綻を回避するならば、返済可能な現役のうちに「老後の返済について改めて見つめ直す」ことが重要です。
そして、自宅についても「本当に老後にふさわしい家なのか?」
一旦立止まり、きちんと向き合ってみることも必要です。
生活にあった老後の住み替えが必要