債権者から任意売却の相談:2つの事例

えっ 債権者から任意売却の相談!?

 当事務所には、「住宅ローンなどの不動産担保ローンが払えなくなった方から」の相談が多く寄せられます。

その中でも「任意売却」に関連する内容も、一定数の割合を占めています。

相談者の立場としては、お金を借りている側で「債務者」となります。

しかし、相談者の中には「お金を貸した側」や「何かしらの支払いを受ける側」の立場となる「債権者」からも相談を受けることがあります。

この記事は、債権者から任意売却の相談を受けた事例、以下の2つを紹介します。

また、「相談者ができる対処法」についても、元債権回収の経験者が解説します。

〈債権者からの相談・2つの事例〉

  1. 債権者が「競売が難しいので任意売却したい」という相談
  2. 債権者が「任意売却で競売を回避したい」という相談
目次

1.債権者が「競売が難しいので任意売却したい」という相談

 債権者が『競売が難しいので任意売却したい・・・?

これだけでは、何を言っているのか分からないので、相談内容を以下に整理します。

〈債権者からの相談内容〉

  • 相談者:マンションの管理組合理事長
  • 抱えている悩み:管理費・修繕積立金の滞納を回収したい
  • 相談者の希望:滞納中の所有者に任意売却をしてもらいたい

要するに、マンションの管理組合で管理費・修繕積立金の滞納が高額となり回収を希望しています。

そのマンションの管理組合理事長(以下、理事長)からの相談です。

どういう訳か、最終手段である競売での回収が困難であるため、任意売却で解決したい様子です。

それ故に『競売が難しいので任意売却したい』となっています。

競売での回収も簡単ではない

競売が難しいとは?

 一体なぜ、競売が難しいのでしょうか?

その対象となる部屋には「抵当権の設定・税金等の差押え」も現在のところ登記事項からは確認できません。

聞けば聞くほど、意味が分からないと思います。

〈管理費・修繕積立金の滞納している部屋の登記事項は?〉

  • 抵当権の設定なし
  • 差押え等もなし

早い話しマンションを担保に、お金を借りている訳でもありません。

登記事項には、税金の滞納による差押え登記もありません。

他の債権者の影響を受けないと判断できるマンションです。

競売での回収は、まさに好都合と言える状況だと通常なら考えます。

競売を申立てても回収が困難とは?

しかし、理事長の言う「競売は難しい」は確かに納得できる理由がありました。

それは、びっくりするほどの「低価格のマンション」だったからです。

市場価格が低すぎて競売には不利

驚きの市場価格

 実はマンション自体はリゾートマンションで、相場としては「1部屋150万円位」で売買されているとのことです。

債務者となるリゾートマンションの所有者に対しては、訴訟して判決も出ていました。

管理組合としては相当頑張っている

つまり債務名義も取得しており、管理組合として出来る手は打ってきています。

準備は万全なのですが、あまりにも市場価格が低いことが問題となっていました。

競売の申立てを行っても、「無剰余取消になる」可能性もあると、裁判所からアドバイスされていたのです。

裁判所からのアドバイスは現実味がある

今回のケースで無剰余取消とは?

 裁判所のアドバイスは最もで、競売の申立てを行った場合、まず競売に必要な手続き費用(予納金)が必要となります。

少なくとも60万円~70万円程(裁判所により違いあり)は掛かります。

市場価格としては、「1部屋150万円位」でした。

しかし、評価人(裁判所が依頼した不動産鑑定士)が出す競売時の買受可能価額は、競売特有のリスクを見込んで価格が低くなります

買受可能価額は市場価格よりダウン

そして、税金の滞納等で優先的に配当される金額を差引くと、競売に必要な手続き費用の見込み額に満たないことも想定できます。

そうなってしまうと「無剰余取消」として、裁判所から競売をお断りされてしまいます

裁判所が競売を取消してしまうことも

しかも、予納金として準備した60万円~70万円も競売を進めるうえで、不動産の評価人に支払う費用等、その他諸々発生します。

その掛かった費用は消費されるため、残金しか戻ってきません

これでは、管理組合として競売を申立てても、無駄な費用を掛けただけで終わってしまう可能性が高いのです。

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予納金は管理組合が用立てる必要がある

管理組合が回収できる見込み

債務名義はあっても、競売は難しい」この問題、管理組合としては、かなり対応に苦慮しているとのことです。

では無剰余取消の可能性があり、債務名義による強制競売では難しい場合、どうすれば良いのでしょうか!?

今後、管理組合が「管理費・修繕積立金の滞納回収」の可能性がある方法を3つ、以下にまとめました。

〈3つの回収方法〉

  1. 所有者に第三者へ売却してもらう
  2. 役所による公売により配当を受ける
  3. 区分所有法第59条(区分所有権の競売の請求)

1.所有者に第三者へ売却してもらう

 幸い抵当権も設定されていないので、所有者は売却すれば、売買代金の中から管理費・修繕積立金の滞納分を精算できる可能性は残されています。

または、滞納分を差引いた価格で売買し、新所有者に清算してもらう。

元々は、理事長の希望する方法でしたが、いっこうに所有者が売却しないため現在に至っております。

単なる所有者の意思任せ

2.役所による公売により配当を受ける

 管理組合が、なぜ情報を知りえたのかは不明ですが、債務者には約30万円の税金の滞納があるそうです。

滞納が続き公売になれば、配当を受取れる可能性があります。

また、公売の配当で足りなければ、新たに取得した者が管理費・修繕積立金の滞納分を継承しますので、新所有者に清算してもらえます。

管理組合として理想的な回収方法

現状では、この方法が管理組合として、手間も費用もかけずに滞納分を回収できます。

ただし、登記事項には差押えの登記も無いので、「公売の可能性、時期についても全く不明」で管理組合としては待つだけになります。

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役所の滞納処分を待つのみ

2.区分所有法第59条(区分所有権の競売の請求)

 実はマンション特有の法律があります。

この法律は、マンションは共同住宅なので「管理費・修繕積立金の滞納で共用部分の確保や共同生活の維持を図ることが困難なとき」は総会の決議を以って、裁判所が認めれば所有権を競売に掛けることができます。

管理費・修繕積立金の滞納者の所有権を第三者が落札、支払い能力のある所有者に変わってもらうことを目的にしています。

管理費・修繕積立金の滞納によって共同生活に必要な十分な維持管理等が行えなくなります

資力のない現所有者から新所有者に変われば、滞納も解消されると考えての対応です。

先に解説した競売とは別なので混同しないように

区分所有者の権利を管理組合が競売により、処分してしまうことになります。

そのため、必ずしも裁判所が認める訳でもなく、見解が分かれている部分でもあります。

従って、区分所有権の競売の請求に関しては、裁判所での手続きも必要となります。

法律の専門家の手を借りなければ実務上は、かなり困難と言えるでしょう。

管理組合だけの対処は難しい

回収のチャンスは所有者の変更

 回収の可能性が一番高いのは、現所有者から新しい所有者に変更されたときです。

仮に管理費・修繕積立金を滞納したまま、売却してしまっても「新たな所有者に対して滞納分を請求できる」からです。

そのため任意売却も含め売買する場合、トラブルを防ぐため管理費・修繕積立金の滞納は解消して取引を終えるのが一般的です。

管理費・修繕積立金が払えないようであれば、早めにマンションを手放してもらうことが一番現実的ではないでしょうか。

理事長の希望は、管理費・修繕積立金の滞納を回収するために「所有者に任意売却をしてもらいたい」のです。

所有者に任意売却してもらいたい

相談者にできるのは任意売却を促すだけ!

 任意売却を「する・しない」を決めるのは、債権者ではありません。

大前提として、任意売却は所有者が決めることで、債権者は強制することはできません。

したがいまして、理事長がいくら希望しても「所有者が任意売却を希望しない限り不可能」です。

債権者であるマンションの管理組合には、任意売却の意思決定はできないことになります。

どうしても、所有者に任意売却をしてもらいたいならば、事実上、債権者としては「任意売却を促すだけ」となります。

任意売却の意思決定は所有者がする

※ 少しややこしいのが、任意売却する際の売買価格の決定権に関しては、実質は債権者にあるという点です。
この辺りのことは、今回のテーマとはズレますので、詳しくは任意売却とはをご参照下さい。

続いて2つ目の相談事例です。

2.債権者が「任意売却で競売を回避したい」という相談

 債権者が「任意売却で競売を回避したい・・・?

こちらの相談も普通に聞くと、少々意味が分かりませんので、内容を以下に整理します。

〈債権者からの相談内容〉

  • 相談者:不動産を担保に知人にお金を貸した者(以下、Aさん)
  • 抱えている悩み:競売だと回収額¥0の可能性
  • 相談者の希望:任意売却で貸したお金を回収したい

簡単な話で「競売は抵当権者が申立てるので、しなければいい!?」という話になるのですが・・・

債権者であるAさんには、どうにもならない現実がありました。

問題なのは、「Aさんの抵当権の順位が2番目」だったことです。

競売を申立てるのは1番抵当権者

2番抵当では配当が無い?

 Aさんは知人にお金を貸し、担保として知人の自宅に抵当権も設定しています。

しかしながら、後順位(2番目)なので競売ではなく、何とか任意売却で資金を回収したいとの相談です。

この手の相談はたまにあるのですが、共通するのは個人等の一般の方からになります。

当然ですが、金融機関等のプロが任意売却の相談をする訳はありません。

そして、もう一つ共通するのは「1番抵当が銀行等で設定済み」で後順位となっていることです。

お金を借りる側から見れば、銀行もこれ以上貸してくれないので知人に借りています。

1番抵当の時点で担保価値は不足しているのに、知人を安心させるため2番抵当を設定させた状況です。

筆者の想像でしかありませんが、「もともと返済する気は無かった」と受け取られても仕方ない状況です。

素人に不動産の担保価値は判断できない

任意売却は高く売れるとの思い込み?

 相談者は債権者ではありますが、金融機関などのプロとは異なり一般の個人の方です。

競売になると落札価格が低く「配当の受取りが1番抵当まで、2番抵当には回らない」と考えたそうです。

そこで、任意売却であれば高値で売却し、多額の回収が可能と判断しているのです。 

競売と任意売却どちらが多く回収できるの?

競売と任意売却では、どちらが多く回収できるのかは、全く分かりません。

しかし、相談事例1の「相談者にできるのは任意売却を促すだけ!」にも書きましたが、大前提として不動産の所有者が、任意売却をする意思が無ければ事は進みません。

競売より高く売れるかは分からない

任意売却でもハンコ代の可能性

 いくら任意売却を望んでも、2番抵当権者が満足する価格で不動産を売却できるのか?

それは、定かではありません。

仮に任意売却しても、1番抵当の債権額に満たなければ、2番抵当は「僅かな金額となるハンコ代で了承」することになります。

ハンコ代とは

こちらの記事をご参照ください。

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ハンコ代でも無いよりはマシですが、後順位の債権者が満足する任意売却はなかなか実現しません

そして、肝心の知人である不動産の所有者はとなると、病気で入院中。

更なる問題としては、その知人は自己破産を検討していて弁護士に相談済みとのことです。

回収とは程遠い現実も・・・

総合的な判断が自己破産

 知人に任意売却の意思があるかは不明ですが、自己破産の申立ては待ってもらわなければ、早々に1番抵当の金融機関が競売の申立てをする可能性も否定できません。

とにもかくにも、ご本人(不動産の所有者)から連絡を頂き、任意売却の意志を確認しなければ行動に移すことはできないと説明させて頂きました。

このケースでは、お金を貸した側が任意売却の道を探っていますが、借りた側は自己破産を検討しています。

債権者と債務者が任意売却という「同じ方向を向いていないため、実現するのは難しい」でしょう。

推測ですが、知人の債務者は事業をしていたため、不動産担保の借金以外に無担保の借金もあると考えられます。

そのため自己破産すれば、自宅も失いますが「借金の返済義務から解放される」ので総合的に判断した結果ではないかと思います。

また、相談者に対して迷惑もかけたが、自己破産したので返済できない言い訳にもなります

多額の負債があれば自己破産が楽

相談者ができること

 相談者のような抵当権者が任意売却を望む場合、債務者とのコミュニケーション不足は致命的です。

知らない間に「自己破産の申立てへ」と話を進めることもあり、あまりいい展開とはなりません。

金融機関のように、事業として貸し付けている訳ではありません。

回収不能となると、自身の生活をも脅かしかねない状況です。

出来ることと言えば、なかなか難しいのですが、「どうしたら債務の総額を減らせるか?

一緒に考えてあげる等の配慮も必要であり、その上で任意売却も検討するというのが一つの選択肢になるのではないでしょうか。

不動産を任意売却した後であれば、「自己破産の費用を減額できる可能性」もあります。

決して債務者にとっても悪い話ではありません。

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自己破産されてしまったら

 相談者の思いもむなしく、債務者の知人が早々に自己破産してしまったら、どうすればいいのか?

自己破産した知人に変わり、「破産管財人が不動産を任意売却する可能性」が残されています。

破産管財人とは

以下の記事をご参照ください。

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その際、破産管財人に対して任意売却に協力するとの意思を伝えましょう。

ただし、先に書きましたが2番抵当ではおそらく満足な回収は望めません。

10万円~30万円程度のハンコ代を受取って終了となります。

競売では¥0の可能性が高いので無いよりはマシと割り切る覚悟が必要です。

競売よりはマシと割り切れるならば任意売却

債権者から任意売却の相談事例を2つ紹介しましたが、プロでない者が債権者として回収するのは、本当に難しいものです。

素人だからできることは、話し合いの場を持つことです。

もし、話し合いも実現しないような状況であれば、早めに法律の専門家へ相談することをお勧めします。

債権の回収は素人には困難を極める

えっ 債権者から任意売却の相談!?

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この記事を書いた人

小田嶋譲のアバター 小田嶋譲 代表取締役

 有限会社 O&Trade代表 大学卒業後、不動産会社と譲渡債権回収の金融機関での勤務経験を経て独立。競売間近の自営業者の不動産担保ローンや不動産投資の失敗による相談など、お金と不動産の専門家として難易度の高い任意売却に精通し、「不動産に関わるお金の悩みの解決」に取組んでいます。この度、「ADR」と呼ばれる法務大臣認証の裁判外紛争解決機関(一社)日本不動産仲裁機構の調停人として登録しました。

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